花笑ふ、消え惑ふ
────手袋をしているほうの、手で。
辺りは喧騒に包まれていた。流もそこまで大きな声を出したわけじゃない。
それなのになぜだろう、その一言は誰のどの言葉よりも大きく聞こえた。
その静かに水が沈殿したような瞳に、一瞬だが芹沢が怯んだ様子を見せた。
ふたたび静まりかえった空間に、ぱん、と手を鳴らす音が響く。
「きっとお団子も、待てば待つほど美味しく感じられますよね!」
にこりと笑った流の瞳には、先ほどのような色はなくなっていた。
そこにあるのは、団子を楽しみにする少女の笑顔──……
そんな流に毒気を抜かれたのか、圧されたのか。
芹沢は大きく肩で息をついて鉄扇をしまった。
「……なるべくはやく持ってこい。いいな?」
「はっ、はい……!すぐに…っ!」
転げそうになりながら奥へと駆けていった店主に、流は頭を下げる。
外したままだった手袋をはめていたら視線を感じた。
こちらを見ていた芹沢に、流はにこりとほほ笑んで小首をかしげたのだった。