花笑ふ、消え惑ふ
芹沢が暴れたのはこれが初めてではなかった。
いままでにも何度か、流といるときにも芹沢は豹変している。
いつも穏やかな芹沢が、ふとした瞬間に乱暴的になるのだ。
そしてそれは決まって酒が入っているときだった。
いまのところ流に対して攻撃的になることはなかったが、人が変わったように暴れ狂う芹沢の標的になるのはいつも立場の弱い商人や町民だった。
“店主の態度が悪い”
“自分の求めていた商品が売り切れていた”
“すれ違う際に肩が当たった”
いつもの芹沢なら笑って流すようなことでも、酔っているときならば別だった。
はじめてそんな芹沢を目の当たりにしたとき、流の中に浮かんだのは『そういうことか』という納得だった。