花笑ふ、消え惑ふ
というのも、芹沢といるときに感じる視線────正しくは芹沢に注がれている視線の正体。
店に入るたび往来を歩くたびに、怯えた様子で芹沢の一挙一動を見守る人々。
その理由がやっとわかった。
芹沢は京の町で狼藉をくりかえし、町の者から恐れ嫌われていたのだ。
“芹沢鴨はとんでもない大悪党だ”
“あの男はもう何人も人を殺している”
“はやくどこかに行ってくれ……”
それでも流は、芹沢から誘いがあればともに行動していた。
また、態度を変えることもなくいままでどおりに接していて……
芹沢は日に日に、乱暴になることが増えていった。
そんな芹沢がとうとう流に手をあげたのは、9月の肌寒い日のことだった。