花笑ふ、消え惑ふ
「せ、芹沢さ……」
きっかけは覚えていない。ただ、自分は芹沢の気に障ることをなにかしでかしてしまったのだろう、と。
いまにも雨が降り出しそうな昼下がり。
壬生寺の境内、石畳の壁に押しつけられながら目の前の男を見つめる。
正面から直視したその瞳におや、と流はあることに気づいた。
────……怒っている、というよりは…
気道をつぶすように指の腹でぐっと喉を押され、その苦しさに流は思わず顔を歪める。
助けを求めようにも、こんな奥まった場所で人が通りかかるわけがない。
一羽の鳥だけが、寺の瓦屋根から様子をうかがうようにじっとこちらを見ていた。
ヨタカ。
頭が大きく、全身が黒褐色で、耳まで裂けているくちばしを開けたり閉じたりしている。
ヨタカは醜い姿をしているため、誰からも好かれていなかった。
いつもひとりぼっちのヨタカは自分が嫌われているのをわかっていた。
ヨタカに凶暴な個体が多いのは、もしかしたらその事実があったからなのかもしれない。
周りからどう評価されているか。それは時として────人をより凶暴にさせる。