花笑ふ、消え惑ふ


「思い出したのだ。近藤が言っておった」


芹沢が口にしたのは、もう幾度となく聞いてきた出来事だった。


吉原で起こった大量虐殺。その犯人である流が、尋ね者として追われていること。




「……いつ気づいたんですか?」

「すこし前…茶屋で、お主に手をつかまれたときだ」


なにか証拠があったわけではない。

ただ、なんとなくそう思ったのだという。




「嘘をついてごめんなさい……」


深々と腰を折った流の頭をじっと見つめていた芹沢が、おもむろに手を伸ばした。

そして頭の上に大きな手が乗った。




「お前を役人に突き出せば、それは莫大な対価を得られるんだろうな」

「……」

「生死は問わないと言っていた。つまり、お前の首をここで落としても構わないということだ」

「……」



「そうだろう?……流」


流は頭を上げようとしたが、それを阻むように芹沢の手が重くなる。


だから流はそのまま、地面を見つめたまま「そうです」と小さく呟いた。



このまま奉行に連れていかれるか、首を落とされるか。


どちらでもいいように流は覚悟をしていたが。


< 130 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop