花笑ふ、消え惑ふ
「思い出したのだ。近藤が言っておった」
芹沢が口にしたのは、もう幾度となく聞いてきた出来事だった。
吉原で起こった大量虐殺。その犯人である流が、尋ね者として追われていること。
「……いつ気づいたんですか?」
「すこし前…茶屋で、お主に手をつかまれたときだ」
なにか証拠があったわけではない。
ただ、なんとなくそう思ったのだという。
「嘘をついてごめんなさい……」
深々と腰を折った流の頭をじっと見つめていた芹沢が、おもむろに手を伸ばした。
そして頭の上に大きな手が乗った。
「お前を役人に突き出せば、それは莫大な対価を得られるんだろうな」
「……」
「生死は問わないと言っていた。つまり、お前の首をここで落としても構わないということだ」
「……」
「そうだろう?……流」
流は頭を上げようとしたが、それを阻むように芹沢の手が重くなる。
だから流はそのまま、地面を見つめたまま「そうです」と小さく呟いた。
このまま奉行に連れていかれるか、首を落とされるか。
どちらでもいいように流は覚悟をしていたが。