花笑ふ、消え惑ふ
「……お前と出逢わなければよかった」
芹沢はそのどちらもしなかった。
流の頭を押さえつけたまま、声だけが鼓膜にすっと届いてくる。
その声はどこか後悔しているような、それでいていまにも泣き出してしまうそうな。
複雑な感情を帯びていたことに、流は気づいた。
「なぜお前は儂から離れなかった?」
「……離れる理由がなかったからです」
「あったろう。たくさん。近くで見てきたはずだ」
それは、と流は思う。
「……たしかに怖かったです」
「……」
「もし自分が芹沢さんだとしても、それは怖いと思います」
「……は、」
なにをしても誰も止めてくれない。
もちろんそれは自分から仕向けたのだから、止めたいのであれば自分で止めたらよかった。
町の者たちに怖がられるのは自明の理だった。
「だけど……それでも、自業自得であったとしても。誰かに止めてもらいたかったんですよね」
きっと自分では止められないんだろう。
止めてくれない周りにも、止められない自分にも腹が立って、それで余計に暴れていたんだろう。
流は何度も考えた。もしも自分が芹沢の立場だとしたら、どう思うか。
──────……恐怖。
まっさきに、そしてつよく思い浮かんだ感情はそれだった。