花笑ふ、消え惑ふ


「だから、…安心してください。わたしは絶対に芹沢さんから離れません」


その言葉を最後に流は口をつぐんだ。


芹沢も息を詰めたまま、一言も言葉を発しない。



やがて空から一粒、また一粒と雨が降りそそいできた。


地面を濡らしていくそれを、流は目で追っていく。




「出逢わなければよかった……いや、ちがう」


そのうち本当に雨が降り出してきた。


屋根にいたヨタカはまだそこにいるのだろうか。






「……もっとはやく出逢っていたらよかった、」


そうしたら、儂は────……




雨脚が増していく。

雨の音にかき消されて、芹沢が最後になにを言ったのかわからなかった。



だけどおそらく、自分の身に迫っていた不穏な足音をはっきりと聞いたのだろう。


それでいて────
……迷い、怯え、後悔を経て。



芹沢は自分の行く末を覚悟をしたのだと。


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