花笑ふ、消え惑ふ


「芹沢さん……泣かないでください」

「泣いておらぬわ。忌々しい雨よのう」


ようやっと軽くなった頭をあげ、芹沢の視線につられるように空を見あげる。

そしてふと屋根に目を向けたが、そこにはもうヨタカの姿はなかった。




「帰るぞ。儂のせいで風邪を引かれたらたまらん」

「芹沢さん」


足を止めた芹沢に、流は言った。




「明日も、会えますよね?」


芹沢はすこし逡巡して、それからにっこりと笑った。

流が幾度となく見てきた笑顔がそこにはあった。



「明日はなにをするかのう。……そうだ、“花子”。花札のやり方を教えてやろう」

「はい!」


流が笑った。そうして芹沢のあとを追いかけて、横に並んだ。


まるで我が子を見つめるような目つきで、芹沢が流の頭を撫でた。



そこに本物の家族の繋がりはない。


だがこのとき、ふたりはまるで本当の父娘のようだった。




そうしてこれが

流が見た芹沢の最後の姿になった。



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