花笑ふ、消え惑ふ
流はみたらし団子を持っていた。
同じ女中であるお千津から仕事終わりに、お疲れさまという言葉と共にもらったものだ。
それを縁側で食べようと、うきうきした足どりで廊下を曲がったとき。
「わっ!わ、びっくりした……」
縁側には先客がいた。
足元に置いてあったとっくりとお猪口を蹴り飛ばしてしまいそうになって、あわてて立ち止まる。
お猪口には酒がなみなみと注がれたまま、手をつけてはいないようだった。
「永倉さん。いらしてたんですね」
「……おう、流」
縁側から足を投げ出していた影が、こちらを振りかえってゆるりと笑った。
それはあの日──流がここに来たときを彷彿とさせる笑みだった。
なんだか違和感がある。だけどそれを具体的に説明することはできなかった。
「ええと……お隣、いいですか?」
「ん、いーよ。来な」
「ありがとうございます」
流はお言葉に甘え、一人分の間隔をあけて座ったあと、両手に持っていた団子の一本を差し出した。
「よかったらどうぞ」
ありがたくもらったはいいものの、二本は食べられそうになかったのだ。
それに一人で食べるより、誰かと一緒に食べたほうが美味しいと思ったから。
礼を言って受け取った永倉にほほ笑み、流は自分の団子を口に頬張った。
────おいしい。
甘辛いタレにこれでもかと漬けられた団子は、頬がとろけ落ちるほどに美味しくて。
永倉にもはやく食べてもらいたくて、促すように横を向いたときだった。