花笑ふ、消え惑ふ
笑っているはずだ。
永倉は笑っているはずなのに、なぜかそれが本心からの笑みには見えなかった。
瞳の奥には、なにか違う感情が潜んでいる。
感情のない人形を動かすように、永倉の表情はむりやり作られていた。
やっと団子の存在を思い出したのか、ふいに永倉がそれを口に含んだ。
おいしいと笑ってくれることを期待したが、なんの反応もなくて。
もしかして団子が喉につかえてしまったのかと心配した。
「前々からなんか話してるとは思ってた」
だけどそれは違った。
それよりも先につかえているものがあったのだ。
「俺に話さなかったのは剣士として使えないからか」
団子よりもずっと重くて、黒くて、くるしいものが。
「それとも……別に理由があんのか」
さっきから永倉がなにを話しているのか、流にはよくわからなかった。
“なんか”が、なにを示しているのか。
“別の理由”とは、なんのことなのか。
なにひとつわからないはずなのに、なぜかうすうす感じるものがあった。
頭のなかにゆらりと浮かんだ人物。
懐かしむように。
遠い日のことを思い出すように淡く笑った永倉が口にしたのは、やっぱりあの人の名前だった。
「俺と芹沢さんは、同じ神道無念流の出身
……いわゆる同門だったんだよ」