花笑ふ、消え惑ふ
それは雲がいいか石がいいかと、芹沢に質問したときのことだった。
芹沢は質問に答えたあと、
『それを言ったのは永倉新八だろう』
といともあっさり当ててみせたのだ。
びっくりした流を芹沢が見つめている。
すべてわかっている親が自分の子どもを見るような目だった。
流は答えなかった。
だけど芹沢は確信を持っているようだった。
『昔から阿呆なことを言う男だった』
顎を撫でながら、芹沢は昔を思い出すようにうなずく。
『自分の本心を隠そうとするところもあったな。弱さや疲れを、人に見せないのだ。そういうとき、あいつは決まって酒を呑む。バレバレだというのに、あえて呑兵衛を振る舞っていた。まったく…どこで覚えてきたのやら』
『……じゃあ、お酒から離してしまえば』
そうすれば永倉は人に話すしかなくなり、弱さや疲れも打ち明けてくれるだろうか。
そう思った流だが、芹沢は意外にも首を縦には振らなかった。
『いや、好きにさせてやればいい』
『えっ……』
『無理に引き剥がそうとしても逆効果になろう。だったら楽になるまで休ま……呑ませてやればいい。あいつは儂と違ってあと50年は生きる。なぜかそんな気がするからのう』