花笑ふ、消え惑ふ
「……芹沢さん、なんて言ってた?」
「え?」
「雲か石か、聞いたんだろ」
流はええ、とうなずいて言った。
「芹沢鴨だそうです」
「……芹沢鴨?」
予想していなかった言葉に面を喰らったのか、永倉が目を瞬かせる。
「はい。自分は雲にも石にもならない。生きている限り、芹沢鴨であり続けるって。そう仰ってました」
流も聞いたときはびっくりしたが、それはたしかに芹沢らしいと思った。
びっくりしたのは、流が以前永倉に訊かれたときに返そうとした答えと同じだったからだ。
だけど流は一瞬でも、そう答えるべきか迷ってしまった。
それなのに芹沢は答えるときに一拍さえも置かなかったのだ。
型にはまらないその生き方を、流はすこしうらやましくも感じた。
「生きてる限り、芹沢鴨であり続ける……」
復唱したあと、いきなり永倉が破顔した。
「そうだよな。
…そうだ、それでこそ芹沢さんだもんな」
噴きだすようにくつくつと笑って、
それでいて、
「……それが命取りになってどうすんだよ、馬鹿」
いまにも崩れてしまいそうだった。