花笑ふ、消え惑ふ
永倉はすぐには言葉を発さなかった。
下に向けられた顔は、なにかを考えこむというよりも、頭のなかに流れ込んでくるなにかを受け入れているようだった。
きっとたくさんの思い出が永倉の脳内を駆け巡っているのだろう。
悲しいこと、楽しかったこと、苦しかったこと、嬉しかったこと────彼らの中だけで色を成し、そして褪せることのない記憶。
「……あーあ」
その言葉は投げやりでも、呆れでも、かといって悲しみを含んだものでもなかった。
すっと顔をあげた永倉ははじめは笑い、
そしてぐっと唇をかみしめ、
最後にはその桑の実色の瞳に涙を浮かべた。
「こんな最後を迎えるような人じゃ、なかっ…なかった、んだけどさぁ」
あと一度でも瞬きをしてしまえば、それは落ちてしまうだろう。
だけど永倉は最後まで落とさなかった。
無意識なのか意識しているのか、絶対に零すことはなかった。
言葉は吐き出しても、それだけはまるで誰かのためにとってある、とでもいうように。