花笑ふ、消え惑ふ


「あの人は凄い人なんだ。凄い人、だったんだ……」


言葉をなくした子どものように、それだけを何度も何度も繰り返す。




「こんなところで死ぬべき人じゃない。もっと違う道があったはずなのに。腕も弁も立つ、学識もある。俺はそんなあの人を尊敬してた。
だから────」




きっと、そこで気づいたのだろう。


言葉を止めた永倉はしばらくして、首を横にふった。




「ちがう……違う、そんなんじゃない」


流はなにも言わなかった。ただじっと、永倉を見守っていた。


言葉をなくした子どもは、それでも必死に言葉を探す。




「剣なんかうまく使えなくたっていい。荒れてたって、賢くなくたって、よかった」


自分の中にある感情を伝えるために。

自分の“本当の気持ち”を、自分自身に教えるために。




「天才かどうかなんて……関係なかったんだ」


なんで今さら気づいたのだ、と。さっきまでのように永倉が自分を責めることはなかった。


ただ、吐いて、吐いて、吐き出した先に、それが存在していたのだ。




「俺は、なんでもいいから……」


すべてを取っ払った、永倉の純粋な、彼への気持ち。







「あの人には……芹沢さんには、

──────生きていてほしかった」



ただ、それだけのことだったのだと。


< 151 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop