花笑ふ、消え惑ふ
「あの人は凄い人なんだ。凄い人、だったんだ……」
言葉をなくした子どものように、それだけを何度も何度も繰り返す。
「こんなところで死ぬべき人じゃない。もっと違う道があったはずなのに。腕も弁も立つ、学識もある。俺はそんなあの人を尊敬してた。
だから────」
きっと、そこで気づいたのだろう。
言葉を止めた永倉はしばらくして、首を横にふった。
「ちがう……違う、そんなんじゃない」
流はなにも言わなかった。ただじっと、永倉を見守っていた。
言葉をなくした子どもは、それでも必死に言葉を探す。
「剣なんかうまく使えなくたっていい。荒れてたって、賢くなくたって、よかった」
自分の中にある感情を伝えるために。
自分の“本当の気持ち”を、自分自身に教えるために。
「天才かどうかなんて……関係なかったんだ」
なんで今さら気づいたのだ、と。さっきまでのように永倉が自分を責めることはなかった。
ただ、吐いて、吐いて、吐き出した先に、それが存在していたのだ。
「俺は、なんでもいいから……」
すべてを取っ払った、永倉の純粋な、彼への気持ち。
「あの人には……芹沢さんには、
──────生きていてほしかった」
ただ、それだけのことだったのだと。