花笑ふ、消え惑ふ
ばかなひと
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そのあとすこし話をして流とは別れた。
これからなにをするのかと聞けば、もう今日の仕事は終わったから自室でゆっくりして過ごす、と。
正しくは土方さんの部屋なので自室というのは違いますね。
そう笑いながら付け加え、流は部屋へと戻っていった。
「……俺ももう寝るかな」
立ちあがるとき、足元に置いてあった酒の存在を思い出した。
一滴も減っていないそれは、いまにも飲んでほしそうに水面を揺らしている。
「ごめんなぁ。今日はもうそんな気分じゃねーんだわ」
すこし悩んだ末、徳利と猪口に入っていたものをすべて庭に撒いた。
思わぬ液体を得た植物が、俺を責めるようにざわりと音を立てる。
変なものを与えるなと怒られているような気持ちになった。
悪かったよ、と肩をすくめて背を向ける。
がたん、と物音がしたのはその直後だった。
「誰だ」
侵入者か?
島原のやつらが帰ってくるには早すぎる。
腰の得物に手を伸ばしつつ、暗闇の様子をうかがう。
「────なんで、永倉さんがここに」