花笑ふ、消え惑ふ
「……総司?」
廊下の角から姿を現したのは総司だった。
俺がいることにひどく驚いている様子で、言葉を失っている。
「島原にいたはず…ですよね。なんで帰ってきてるんですか」
「途中で抜けだしてきたんだよ」
総司とまともに話したのは久しぶりだったこともあり、どうにも接し方がわからなかった。
「それよりお前こそなんで……」
ここにいるんだ、と言いかけて、言い直す。
「部屋、連れてってやるよ」
「は……いいです、自分でいけます」
「んな青い顔して言われても説得力ないね」
「これは雨に濡れたからです」
総司は俺を避けるように、横を通り過ぎようとした。
けどすぐにふらりと体が傾いたから、とっさに腕をつかんだ。
ほれ見ろ。
「年上の言うことは聞くもんだよ」
そう言った俺に、総司は不服そうにしながらも、もうなにも言わなかった。