花笑ふ、消え惑ふ


「さ、終わったぜ……ってまだ着替えてないのかよ」


俺なりに丁寧に布団を引き終わり振りかえると、総司はまだ着流し姿のままだった。

呆れながら立ちあがって、すれ違いざまにその肩をぽんと叩く。



「はやく着替えてもう寝ろよ。おやすみ」

「……んで、」

「はい?」

「なんで、なにも訊かないんですか」


鼻につくような濃い血の臭い。

飽きるほどに自らも纏ってきたその臭いに、気づかないわけがなかった。


雨でもかき消せないほどの、血。

俺だって多少は夜目が利く。


たとえ月が隠れていようとも、灯りがなくとも。



……総司の全身が血に濡れていることくらい、最初からわかっていた。




「わかってるんでしょ、あんた。もう、全部、ぼくがなにをしてきたかも──」

「じゃあさ」


遮るようになってしまった声は、広くもない部屋に思いのほか大きく響いた。






「じゃあ、お前の手、触らせてくれよ」


< 158 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop