花笑ふ、消え惑ふ
「そうだよな……お前は、昔っからそうだったよな」
総司がまだ宗次郎と名乗っていたときから、ずっと見てきたはずなのに。
こいつはいつだって、誰よりも稽古に打ち込んでいたのに。
当時食客だった俺に教えを乞いにきたこともあったのに。
なぜ、それを忘れていたのだろう。
忘れることができたのだろう。
「馬鹿は、俺だ」
恵まれた才能があるからといって、総司がそれに驕ったことなど一度もなかった。
驕っているのは自分だったのだ。
自分じゃどうしても総司には勝てない。
その劣等感、嫉妬を稽古への活力ではなく酒に変えた。
逃げたんだ。
慕ってくれていた部下も、積み上げてきた鍛錬も捨てて。
『そんなにぼくに負けるのが怖いんですか』
この前、道場ではっきりと言われたことを思い出す。
ああその通りだ。ご名答だよ総司。
「俺はずっと、お前に負けるのが怖かった」
「……だから稽古に来なくなったんですか」
「そう、だと思う」
最初はおそらくそうだった。それが原因だったはずだ。
それが最近ではもう、自分でもなぜ稽古から逃げているのかがわからなくなってきているのだから、笑えない。笑えなくなるほど……カッコ悪い。