花笑ふ、消え惑ふ
殴られると思ったのか、総司が肩をすくめて目をつぶる。
俺はちいさく笑った。
「それ言えてる」
俺も馬鹿なら、芹沢さんも馬鹿だ。
あの人はすでに覚悟をしていたのかもしれない。
死を受け入れて、今日という日を迎えたのかもしれない。
……本当に、どこまでも、ばかなひとだ。
目をあけた総司が、ぐず、と鼻を鳴らす。
「だけどぼくは……あの人のこと、嫌いじゃなかった」
「……うん、俺も」
俺もこいつも、もういい年なんだけどなぁ。
流のときは我慢できていた涙も、総司の前ではどうしても堪えきれなかった。
涙ってのはいくつになっても出てくるもんなんだな。
「永倉さん」
「ん」
「もう逃げないって約束してくれますか」
「逃げないよ、もう。約束する」
あの人もひと知れず涙することがあったのかな。
ぼろぼろと涙を流す総司の頭を撫でながら、そんなことを思った。