花笑ふ、消え惑ふ
その数日後、俺は総司の悔しそうな顔を見下ろしていた。
「うわははは!洟垂れ坊主、打ち破ったり~!」
「洟垂れはそっちでしょう!」
広々とした道場の中心で俺たちは向かい合っていた。
辺りはがやがやと騒がしい。
隊士たちが俺たちの手合わせで、見取り稽古をしているからだ。
中にはどちらが勝つか賭けていた奴もいたようで、反応はさまざまだった。
おいおい、賭けるのはいいけど土方さんに見つかったら即切腹だぞ。
「えーと……これで63勝56敗か?」
「……」
「なあ総司、俺を追い越すんじゃなかったの?」
「……!!」
さっと顔をあげる総司。
目で人を殺せそうなその剣幕に、言い過ぎたかと口をつぐむ。
「ええと、でも、なんだ、お前はもうとっくに──」
「……もう一戦しましょう」
負けず嫌いにもほどがある。
動もするとこいつは俺よりも負けず嫌いなのではないか。
俺が稽古に来なくなって怒っていたのは、負担のためでも、俺のためでもなく、自分のため。
呆気にとられる気持ちよりも、総司らしいなという感情のほうが勝った。