花笑ふ、消え惑ふ
「……いーぜ。次、俺が勝ったら件の茶屋に連れてってもらうかな」
「件の茶屋?」
「女中たちへの差し入れの団子。買ってきたのお前だろ」
すると総司は絶句するような、呆れたような顔をした。
「なんで食べてるんですか?永倉さんに買ったわけじゃないんですけど」
「細かいことはいーじゃん。な、今度連れてけよ」
「もうお金ないです」
総司はそう言ったあと、極々小さな声でつけ足した。
…………奢ってくれるなら、と。
お、と思う。
こいつが誰かと茶屋に行くことはなかなかない。
強引に誘ったとはいえ、きっと前ならすげなく断られていただろう。
「しょうがねえ。散々迷惑かけたしな」
「自覚はあったんですね」
そのとき、道場の前を通りかかる影が視界に入った。
見覚えのあるその後ろ姿に、俺は意識するよりも先に声をかけていた。
「流!」
まさか、俺が道場にいるとは思わなかったんだろう、
不思議そうに辺りを見回す流にもう一度声をかけると、振りかえった流と視線がかち合った。俺の姿を確認した流は、驚いたような顔をしたあと、はっと思い出したように頭を下げてくる。
「急ぎの用がないなら入ってこいよ」
「は、あんた何言って」
「今から総司と試合するんだ。よかったら見てけよ!」
「ちょ、おい。永倉さん」
「なに怒ってんだよ総司」