花笑ふ、消え惑ふ
俺から言うことはもう何もなかった。
この男に未練なんて可愛らしいものもない。
……いいや、この男だけじゃない。俺は、いままで、誰の死に対しても未練はなかった。
入れ替わるようにして総司が部屋に入ってくる。他の面々を始末していたのだろう。
暗く獰猛な瞳は、それでもこの場に不釣り合いなほどに冷静だった。
「そ、うじ──────」
自分の背中を斬ったのが、いま多少の安堵の息を吐きながら呼んだ男だと、はたしてこの男はわかっているのだろうか。
どうやら狸は俺よりも総司のほうが好きらしい。
「後は任せた」
総司の肩に手を置いた。華奢な、まるで女のような肩をしている。
俺の言葉にうなずいたのか、それともなにかつぶやいたのか。それはどうだってよかった。
「そうじ、……────たすけてくれ、総司」
沖田総司が俺の命令に背いたことなどなかったからだ。