花笑ふ、消え惑ふ


「芹沢は長州の賊に襲われたことにする」

「……」

「いいか、永倉には悟られないようにしろ。俺たちがやったと知られたら面倒だ。わかったな原田」


近くで俺の話を聞いていた原田が、うげ、とわざとらしく声を出す。




「なんで俺名指しぃ。てかあれよ?俺わりとお口固めよ?」

「そうか、なら今から黙ってろ」

「言われたとおり、島原では新ちゃんに目光らせてたけどさ。いつの間にかいなくなってたもん。ここには来てないだろうけど……あいつだって馬鹿じゃないんだからさ、……もう──」


原田の言葉がそこで止まったのは、遮るように俺が手を振ったからだ。そんなこと、言われずともわかっている。

永倉は聡い。芹沢の暗殺の真意に気付くのにそこまでの時間は要しないだろう。


しかし何度も言うが、あいつは、聡いのだ。真実を知った上で、自分がどう動くべきか。誰の元につくべきかをちゃんと心得ている。

あの男は、近藤さんを裏切るような真似はしない。絶対に。



風の流れが変わった。血生臭い、どろりとした空気が嫌でも鼻につく。


振りかえると、そこには夜でもわかるほどの血が広がっていた。



部屋の中心で死体に囲まれ、それは絶望に歪んだ顔をしている。

額にこびりついた血が、雲の隙間から覗く月にてらてらと反射して見えた。






「ここで袂を分かつとするか。新撰組局長────芹沢鴨」



手折った花が返り咲くことはもう二度とない。




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