花笑ふ、消え惑ふ


流はお風呂の道具を抱えて部屋を出たあと、きょろ、と意味もなく辺りを見渡した。



────どうしよう、誰に頼もうかな?



とにかく歩き出した流は、彼らの顔を次々と思い浮かべていく。


まっさきに×がついたのは、原田だった。

なんなら混浴しようとしてくる未来が流には見えている。


そして、沖田にも嫌われているから頼めない。



────そうだ、永倉さんなら。



最近よく話すようになったし、きっと見張りも請け負ってくれるはず。


ぴたりと歩を止めた流は、一瞬顔を明るくしたものの、すぐにその考えを打ち消すように頭を振るった。



────だめ。この時間、永倉さんはまだ稽古をしてる。


サボっていた分、今までの遅れを取り戻そうと稽古に打ち込んでいた。邪魔するわけにはいかない。


あとの人たちはあまり話したことがなかったから、頼むのは気が引けた。




「ううん……んん~……」


流はとてもとても困った。


そうして屯所を一周したあと、とある部屋のふすまを開けた。





「というわけで、お願いしてもいいですか?」

「なんで戻ってきた……」



うすうすそんな気がしていたのか、土方はひときわ大きなため息をついただけで。


それ以上は文句を零すこともなく、ゆっくりと立ちあがった。


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