花笑ふ、消え惑ふ
申し訳ない気持ちはもちろんあった。
ただでさえ多忙な土方の時間をけずっている自覚もあった。
なのでなるべく早く済ませる努力はしているものの、土方を待たせていることに変わりはなく。
「すみません、お待たせしました」
今宵もまた、扉の外で立っていた土方に頭を下げるのだった。
今日はとくに遅くなってしまったと、ぺこぺこしながらひとり反省する。
じゅうぶんに拭けていない髪からはしきりに水滴がしたたり、流の肩や首を濡らしていた。
それを見た土方が眉をひそめる。
「……おい」
「あ、すみません!床は濡らさないよう気を付けます」
怒られると思った流が、ぎゅっと両手で毛先をつつんだ。
こうすれば床に水滴が落ちることはないだろう。
それ以上なにも言わずに土方が歩き出したので、ほっとしながら流もそのあとを追った。