花笑ふ、消え惑ふ
うだるような暑さはいつの間にか過ぎ去り、夜風がつめたい季節になってきた。
いまは師走。
流がここに来てはや数ヶ月がたっていた。
「もう冬ですねぇ」
このままではせっかくあたためた身体が湯冷めしてしまう。
風邪を引いてこれ以上迷惑をかけないよう、着物のえりを合わせ直す。
吐いた息は、きっと白い。
「土方さん、は、冬はお好きですか?」
夜目が利かない流は、意識して息を吐き出しながら問いかける。
じっと目を凝らすが、白いかどうかはわからない。
ついでに土方からの返事もないが、今さら落ち込んだりしない。
流はとくに気にすることもなく、ひとり滔々と話を続ける。
「わたしは春が好きです。だって、春になったら桜が咲きますし。ここの中庭には大きな桜の木がありますよね?きっと綺麗なんだろうなぁ」
吉原にも桜の木はたくさん埋まっていた。
遊女たちが逃げないように、遊郭の周りをぐるりと囲む黒くて深い水路。
その水路に沿って何十何百と咲き乱れる桜はまるで檻のようだった。
吉原の水を吸っていなければ、 そのそびえ立つ桜も見事に思うことができたのだろうか。