花笑ふ、消え惑ふ
「えっと、あの……そう──」
流が答えかけたところで、土方がそれを遮った。
「おい呑兵衛、近藤さんは」
「さあ?もう寝てると思うよ。明日にすればぁ」
────なにを?
流の頭に疑問が浮かんで、すぐに消えた。
おそらく自分に関する何かであるということは、容易に想像がついた。
もしかしたら処分されるのかもしれない。
一抹の不安が流の胸の内になだれ込んでくる。
「じゃあな~」
振りかえると、永倉はまだニコニコしていた。
頭を下げようとすると、すぐ後ろを歩いていた総司に小突かれる。
「はやく歩いて」
「ご、ごめんなさい」
そのうち総司は、突き当たりを曲がったらいなくなっていた。
────どこに行ったんだろう。
土方は気にも留めないで、黙って廊下を進んでいる。
「あの、土方さん。総司さんがいなくなっちゃって……」
「気にするな」
「でも、もし誰かに襲われてたりしたら」
土方は歩みを止めて怪訝そうにこちらを振り返った。
流はなにかマズいことを言ったかと冷や汗をかきそうになる。
結局、土方はなにも言うことはなくふたたび前を向いて歩き出した。
だから流もそれ以上、踏み込んで訊くことはできなかった。