花笑ふ、消え惑ふ
「……犬かよ」
「犬でしょ、ぼくら、ご公儀の」
「そういう意味で言ってんじゃねえ」
「これ使ってください。ひどい顔ですよ」
持ってきた手ぬぐいを渡すと、目の前の男は血だらけの顔を荒くこすった。
よく見ると首筋や額にかすかな汗を滲ませている。
いままで蒸し暑い蔵に籠もっていたからか、それとも疲れからか。
「古高が吐いた」
「……そうですか」
数日前、四条にある枡屋という薪炭商がどうやら長州とつながっているとの情報が入った。
うわさを入手したのは監察方の烝さん。
あの人、どうにも胡散臭いけど仕事はできる。
結果として、枡屋から大量の武器弾薬や長州とのやり取りが記された書簡、血判書が見つかった。
その時点でもうほぼ黒。
なにをしようとしているのかも薄々察しがついてたんだけど、念には念をと言うことで店主である古高を取り調べにかけることにした。
なんとからしい、かもしれない、という曖昧な情報には惑わされない新撰組一合理的な男が、直々に。
取り調べ、というか、ほとんど拷問だけど。