花笑ふ、消え惑ふ
きっと心配で呼び止めたわけじゃないだろう。
この人の頭の中にはこの組織のことしかない。
損得勘定で物事を判断して、自分もしくは組織の得にならないことには首を突っこまない。
ぼくのことも忠実な駒だとしか思ってないはずだ。
「土方さん、ぼくのこと贔屓にしてます?」
「するわけねぇだろ。俺になんの得がある」
この男は。
だけどそれでこそ、とも思った。
共感性に欠け、気遣いをすることもない。
周りにいい印象を与えたいとは考えないから、無駄に笑顔も見せない。
あまりにも酷い。
これで女にモテるのだから世も末である。
「まあ今に始まったことじゃないですけど」
「あっつ……」
忌々しげに舌打ちをする土方さんは、とっくにぼくのことなんて眼中にないんだろう。
いまこの人の頭を支配しているのはうだるような暑さと、新撰組のことだけだ。
「土方さんは変わらないでくださいね」
ぽつりと呟いたその言葉も、きっと聞かれることもなく暑さに溶けて消えた。