花笑ふ、消え惑ふ
「とりあえず今日はここで寝ろ」
案内された部屋はかなり殺風景だった。
灯りだけが部屋の真ん中にぽつんと浮かび上がっている。
流はその部屋にぐいと押し込まれた。
たたらを踏んで、不安そうに土方を見あげる。
「でも、その……」
「…んだよ」
さっきから、でも、とかその、ばかり言ってしまう。
自分でもわかっているけれど、どうにも不安がつきまとうのだ。
煮え切らない流の態度にさすがに苛ついたのか、土方はするどい口調で「言いたいことがあったら、言え。迷うくらいなら、最初から言おうとするな」とはねつけるように言った。
「ひ、ひとりで寝なきゃだめですか……?」
「……は?」
それは、予想だにしていなかったのか。
土方の表情から一瞬だけ気骨が抜かれたようになる。
流はあわてて説明するように言葉を続けた。
「あのっ、昔から、ひとりで寝るの…怖くて……」
「お前、年はいくつだ」
「えっと、15です」
吉原に売られたときはまだ5歳、禿にすらなれない年齢だった。
────あれから10年が経ったんだ。