花笑ふ、消え惑ふ
「はあ……ガキどもが」
ひとり残された廊下はいやにがらんとして見える。
もう一度深い息を吐きながら、理由もなく月を見あげた。
蒸し暑い夜の風がするりと顔を撫でていく。
俺はその感触が昔から嫌いで、だから夏の夜も大嫌いだった。
そんな夜に拾った娘。
尋ね者として、死しか待ってなかった15の女。
『いつもあなたは、大切なことをはぐらかす』
「べつに……はぐらかしてるわけじゃねーよ」
今にも落ちてきそうな青い月は、それでも明日の朝には姿を消す。
それが正しいと思い込んできた満月の形が、実はどこかが欠けていたなんてこともざらにある。
世の中はそういうふうにできている。
俺はそれを嫌というほど知り尽くしている。
ただ、それだけだ。