花笑ふ、消え惑ふ
「おーい、大丈夫?ちとやり過ぎたかねぇ」
男はおかしそうに眉を下げて笑った。
そう。のっぺらぼうの下から出てきたのは、今度こそ人間の男の顔だった。
日に当たることを知らないような色白の肌に、淡黄色の猫目をふちどる長い睫毛。
光を取り込んでしまいそうな黒色の前髪はすこし長め、後ろは肩につかないくらいの長さで一部をお団子に結い上げている。
おそるおそる、相手の出方に神経を集中させながら、どうにか畳の上に座り直した流。
いまだ状況に追いついていない涙を男が袖で優しく拭ってくれたときにも、びくうっと肩を跳ねさせた。
「やーごめんごめん。まさかそんなに驚かれるとは。怖かった?」
素直にうなずけば、軽快に笑った男が流の頭に手を置いた。そのまま子供をあやすようにぽんぽんと撫でられる。
「あの……どちらさま、でしょう……?」
「すげー警戒。ま、そんなビビんないでよ。怪しいもんではないからさ」
────すごく怪しいです……
いまだ余韻のように涙がでる瞳で、流は男の様子をうかがう。
するとふたつの双眼が、にい、と弓なりに細められた。