花笑ふ、消え惑ふ
「おれは山崎。山崎丞。よろしく、ナガレちゃん」
「え、わたしの名前」
────そういえば、昨日も。
総司が自分の名前を知っていたことを思い出す。あのときは気に留める余裕もなかったけど、もしかしたら自分に関することは────
「ぜーんぶ知ってる。なにもかも、ね」
どきりとした。心を読まれたようで、男──山崎をこわごわと見あげる。
「わたしの力のこと、も」
「うん」
「知っている、ということでしょうか……?」
「もちろん知ってるよ。だからこれ、渡すように頼まれてんの」
そう言って山崎が手渡してきたのは白い布の手袋だった。
「つけてないといざってときにマズいんでしょ?」
そこでようやく、今の自分がなにも手につけてないことを思い出す。
昨夜までつけていた手袋はどこにも見当たらなかった。
……まるで消えてしまったかのように。