花笑ふ、消え惑ふ
「ありがとうございます」
お礼を言って手袋をつける流の肩が若干落ちていることに気が付いたんだろう。
山崎が理由を促すように視線を向けてきたので、それに気づいた流は小首をかしげながら笑った。
「前の手袋、気に入っていたので。すこし残念で」
「……あのさ」
「はい?」
「もしかして、あんま気にしてない?自分が江戸でやってきたこと、とか」
山崎に下からすくい上げるように見つめられ、流はそれをじっと見つめ返す。
柔和な雰囲気の中にどこか射るような強さを感じる。この人も隊士かなにかなのだろうか。
それにさっきから心の中を読まれているような気がしてならなかった。山崎の前ではどんな隠し事もできないのではないか、そう思う自分が、そう思わせる山崎がなんだかおかしくて笑ってしまった。
さすがに怪訝そうに眉をひそめられ、流はしずかに、だけどよく通る声で言った。
「そんなわけないじゃないですか」