花笑ふ、消え惑ふ
「だったら大丈夫だと思うよ。あの人、だいぶ人間やめてるけど、自分の信念だけはちゃんと持ってるから」
「自分の、信念?」
まるで初めて聞いた言葉のように反芻する。
実際、それがどういうものなのか。まだ15歳の流にはよくわからなかった。
────とにかく、すごいものなのかもしれない。
「そう、信念。どーゆー理由があって罪人……ナガレちゃんを生かしたのか、そこはおれもわからないけど。それでも自分が拾ったからには、割合最後までしっかり面倒見てくれるんじゃない?って話」
まるで犬猫のようにものを言う。流は苦笑しながら、それでも内心、不安は募るばかり。
今の話を聞いて手放しに安心できるほど、流はまだここの人たちのことをよく知らない。
ぐーすか眠りこけていたと言われればそれまでなのだが。それとこれとはまた別物なのだと、流は不安げに胸の前で両手を包みこんだ。
「ま、どっちに転んでもいいように覚悟はしておきな。おれはあくまでも諸士調役兼監察方。副長助勤の方々にゃ頭もあがんないからさ」
「しょししらべやくけん、かんさつがた?ふくちょう……じょきん?」
聞き返すが、山崎はもうなにも教えてくれなかった。
それ以上は幹部会で正式に流の処遇が決まってから。話はそれからだ、と。そう言われているような気持ちになった。