花笑ふ、消え惑ふ
「あ、そういや」
また幹部会が始まる前に迎えが来るから、それまではここにいて。部屋から出ちゃだめだよ。
そう念を押した山崎は部屋を出ていく寸前、思い出したようにこちらを振り返った。
「なんで副長……土方さんだったわけ?」
「へ?」
「おれが驚かしたとき。めちゃくちゃ連呼したよね、あの人こと。なんで?」
流は律儀に考えこんで、そのうちにへらと笑った。
どうにも締まらない、言ってしまえば間抜けな笑顔だった。
「ぱっと思い浮かんだのが、土方さんだったので」
「夢抱いてんなら潰すようで悪いけど、あの人はそーいうとこ冷たいよ」
「それは、なんとなくそうだろうなぁって思ってました、わたしも」
初めて意見が合ったとでも言わんばかりに片眉をあげた山崎は今度こそ部屋を出ていった。
いま思えば気配の一つもない、足音も、息遣いも、なにもかも。まるで忍びのような人だった、と。
開けられたままのふすまから朝日を浴びながら、流はようやく、目覚めのひと息をついたのだった。