花笑ふ、消え惑ふ
流はぴんぴんしている総司の姿を確認して、ほっと胸をなで下ろした。
「総司さん、ご無事だったんですね」
昨日からずっと、ひそかに心配していたのだ。
ここは屋内だから辻斬りや不逞浪士に襲われる心配はないとはいえ……
「急にいなくなったから、どうしたんだろうって。とにかく何事もなかったようで、よかったです」
にこにこと人当たりのいい笑顔を浮かべる流。
周りの人間は流がなんの話をしているのかわからず、
当事者である総司もはあ?という表情を浮かべるだけだった。
「座れ。余計な話はするな」
総司がなにかを言う前に、奥のほうに座っていた土方が低く声を出した。
座れと指定された場所に流は腰を落ち着ける。
ふすまに背を向け、出口からいちばん近い場所。最も位が低い者が座るところだった。
そんな流の真正面にいるのは土方ではなかった。
大柄でまるで岩のような男。だけどその表情はこの場にいる誰よりも穏やかで。
ちらり、流と目があえば燦々と輝く太陽のような笑顔を見せてくれた。
場所からして、ここでいちばん偉い人のはずなのに。
隣に座っている土方のほうが、流の目にはよっぽど威圧的に映っていた。