花笑ふ、消え惑ふ
「よく眠れたかな?」
「はい。ひさしぶりに寝られました」
「そうかそうか。それはよかった」
男はにこりとひと笑いをして。
もっと話したそうにしていたが、こほんとひとつ咳払いをした。
また土方に『余計な話はするな』と言われるからであろう。
次に男が正面を見据えたとき、空気ががらりと変わったことに気づく。
「それではいまから幹部会をはじめる」
さっきまでは感じなかった威厳が、その言葉を包みこんでいた。
それまで流を物珍しそうに眺めていた人たちも男のほうを向いて。
いまにも流をちょんとつつきたそうにしていた小柄で童顔の男も前を向いたので、流はほっと息を吐いた。
「今回の件は言うまでもない、その子──ながれについてだ」
「なあ、近藤さん。オレあんま聞いてなかったんだよ。まさか本当に捕まえることになるとは思わなくてさ。だからもう一回話してくれねぇ?そいつがどこの誰なのか、なにをして尋ね者になったのか」
「平助……お前なぁ、あれほど私の話を聞けといつも」
場を仕切っている男は近藤という名らしい。平助と呼ばれた男は、先ほどまで流をつつこうとしていた童顔男だった。おそらく能力のことだけはうっすらと覚えていたから、触ることに躊躇していたのだろう。