花笑ふ、消え惑ふ
近藤は出鼻をくじかれたようにがっくりと肩を落としたが、気を取り直してまた背筋を正した。
「すこし前、江戸の吉原で人が大量に消えたことは知ってるな?」
「ああ。それは近藤さんの話を聞く前から知ってたぜ!」
「当たり前でしょ。あれだけの大事件を」
自信満々に胸を張る平助に呆れたのは、隣に座る総司だった。
あれだけの大事件という言葉に含まれた剣呑さを自分に向けられていることに流は遅れて気づく。
「ながれはそこで働いていたうちのひとりだった」
「働いてたって、禿?さすがに新造?」
近藤は話を進めるが、またしても平助が話の腰を折った。
近藤に聞くのではなく、直接、流のほうを向いて訊ねてくる。
「いいえ、女郎でした」
女郎、つまり、遊女である。
自分が身体を売っていたと打ち明けることに対してとくに抵抗はなかった。というよりも、流が恥ずかしがったところで、だ。すでに情報は伝わっているだろう。
平助は面食らったようにまごつき、そして「ご、ごめん」と小さくなった。