花笑ふ、消え惑ふ
「自分もよく島原に行ってるくせに」
「さ、さっきからうるさいなぁ総司!」
島原。
これも吉原で客から何度か聞いたことがあった。
大抵、吉原と比較されるときにこの“島原”という言葉が出てきていたから、おそらくはここ、京の遊郭なのだろう。
「で、吉原から逃げ出したくて店の人を皆殺しにしたんだよね?流ちゃん」
総司の問いかけに流は大きく目を見開く。そうしてふるふる、と首を横に振った。
「いえ、そんなつもりじゃ……皆殺しなんて、そんな」
「変わらないよ。花に変えたってことは、そういうことでしょ」
「でも……」
流は緊張しているのかぎゅっと胸の前で拳をつくった。悲しそうな顔は、どこから見ても人畜無害、純粋無垢な少女のものだった。
「わたし、そんなつもりはなかったんです」
神に許しを乞うような、そんな表情。気を抜けば惑わされてしまいそうな可憐さ、いたいけさに……不釣り合いの言葉。
そんなつもりはなかった、と。流はもう一度せつなげに繰り返した。
伏せられたその長い睫を総司がどんな気持ちで見ているのか流は知らない。
「……あんた、やっぱり──」
「そこまで追い詰めりゃもう充分だろ」
突如としてかけられた声に、総司は苦虫を噛みつぶしたような表情をした。
「……土方さん、は。なんでこの子を庇うんです」
「こいつを糾弾するために集めたわけじゃねぇからだ」