花笑ふ、消え惑ふ
『あの、おばさんは……?わたし、どこか、いくの?』
『大丈夫だよ。これからはうちで面倒をみてあげるからね』
いくら振り返っても、そこにおばさんの姿はありません。
まだ幼いナガレの手をつかんでいるおじさんは、にっこりと笑いかけてくれます。
不安を払拭してくれるような、その笑顔に安心したナガレは、手を引かれるがままついていくことにしました。
(今度はうまくやらなきゃ)
(嫌われないようにしなきゃ)
そしてナガレは花町へと売り飛ばされてしまったのです。
いつも頭のなかにあるのは、あたたかな両親の笑顔でした。
消えてしまった両親をナガレはいつも想っていました。
……ああ
すこしでいいから
また、
──────……誰かに愛されたい。
吉原で大量の花が咲き乱れたのは、
それから10年後のことでした。