花笑ふ、消え惑ふ
序章






「ごめんね、ぼくとしてもあまり斬りたくないんだけど」


しかもきみみたいな、人畜無害そうな子はとくに。

ぼくだって鬼じゃないし、人を斬る行為はそこまで楽でもなかった。


いくら斬っても、慣れるもんじゃない。

慣れてはいけない。




「っ……たすけて」


だから、そんな顔でこちらを見つめないでほしい。


小さな声で命乞いをするのは、まだ年端もいかない罪人だった。


こんなか弱そうな女、刀を使わずとも命を奪えそうだった。しかもまだほんの子供だ。


はやく済ませてしまわないと情を移してしまいそうになる。

……見逃すという選択肢はハナからなかったが。



周りに落ちている花々にちらりと目をやる。


“彼ら”はもう二度と息をしない。


コロコロと夏の夜風に揺られるだけの花から、また少女へと視線を移した。


ここまで逃げてきたという格好にふさわしい、ぼろぼろになった着物。顔は薄汚れていたが、それでいても元は綺麗な女子であることがうかがえる。


ちゃんとした身なりをしていれば、さぞかし人気があったのだろう。



……その場を壊滅させたのは、この子自身なんだけど。




「上からの命令なんだよ。もし見つけたら連れてこいって言われてるわけ」


細く息を吐けば、色づくこともなく宙に溶ける。


たぶん、あの日もこんなふうに消えたんだろう。

簡単に、あっけなく。


ねえ、と声をかければ、怯える視線と重なった。



「きみが(ながれ)ちゃん、だね?」


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