花笑ふ、消え惑ふ


先日、明け方未明。

江戸にある幕府公認の遊郭────吉原。
艶やかな女たちが芸と色をつかって男をもてなす場所。

その吉原でも一番大きな揚屋・旗本楼にて、事件は起こった。


そこにいた人間が一夜にしてみな消えてしまったのだ。

芸妓も、遊女も、客も、みんな。


そこには大量の花だけが落ちていたらしい。


たったひとり、とある遊女の禿(かむろ)を残して。


その小さな禿は震えながらも、こう証言したという。




『わっちの姐さんがやりんした。春町太夫も、遣り手婆も、明星姐さんたちもみんな……流姐さんが……あれは手品なんかじゃござりんせん。そんな可愛らしいもんじゃねえ。あれは…化け物の力でありんす。流姐さんは……化け物でありんした』



吉原で人が消えた。

その噂が京まで広まってきたとき、ぼくたちはすでに命を受けていた。



『その女を見つけたら、殺して持ってこい』




目撃者の証言なんか聞かなくても、彼女が犯人だとわかっているような口ぶりだった、と。

実際にその場に立ち会った近藤さんが同情するように言っていた。


< 6 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop