花笑ふ、消え惑ふ
先日、明け方未明。
江戸にある幕府公認の遊郭────吉原。
艶やかな女たちが芸と色をつかって男をもてなす場所。
その吉原でも一番大きな揚屋・旗本楼にて、事件は起こった。
そこにいた人間が一夜にしてみな消えてしまったのだ。
芸妓も、遊女も、客も、みんな。
そこには大量の花だけが落ちていたらしい。
たったひとり、とある遊女の禿を残して。
その小さな禿は震えながらも、こう証言したという。
『わっちの姐さんがやりんした。春町太夫も、遣り手婆も、明星姐さんたちもみんな……流姐さんが……あれは手品なんかじゃござりんせん。そんな可愛らしいもんじゃねえ。あれは…化け物の力でありんす。流姐さんは……化け物でありんした』
吉原で人が消えた。
その噂が京まで広まってきたとき、ぼくたちはすでに命を受けていた。
『その女を見つけたら、殺して持ってこい』
目撃者の証言なんか聞かなくても、彼女が犯人だとわかっているような口ぶりだった、と。
実際にその場に立ち会った近藤さんが同情するように言っていた。