花笑ふ、消え惑ふ
あらわになった自分の手。生っ白い指先を、なるべく見ないようにして、本にそっと触れた。────……瞬間、
ぱっと弾けるように、花が咲いた。
いや、まるで咲いたように。色とりどりの花々が宙に舞ったのだ。
赤、白、黄、薄青色の、大小さまざまな花が。
「おおっ」
お客さんの歓声はまるではじめて見るかのよう。
こうして喜んでくれる人がいる、わたしにとってもそれは嬉しかった。
両手をひらいて、ぱらぱらと花を床に落として。神隠しのように消えた本の面影はどこにもなくて。
「いやぁ、ほんとうに綺麗だ。何度見ても感動するよ。どうやってるのか教えてくれない、よね?」
「ふふ、秘密です」
「その手品、練習したら僕でもできるようになるかな?」
「さあ……どうでしょう。これは持って生まれた才のようなものですので」
お客さんは布団の上に散らばる花をすくいあげ、心底うっとりした顔をした。