花笑ふ、消え惑ふ
コロコロと揺れるちいさな花たち。
さきほどの猫はもういなくなっていた。
呆然とそれらをながめていた流のうしろに、だれかが立つ気配がした。
「……水揚げのとき、わたし、我慢できなかったんです」
流は地面を見つめたまま、そうぽつりと呟いた。
後ろにいる人に語りかけるようでも、自分に言い聞かせるようでもあった。
「痛くて、だれかとひとつになるのってこんなに痛いんだって……びっくりしました」
最初は、自分の手を噛んで耐えていた。
お客さんを傷つけたらだめだから、布団をぎゅっとつかんでいた。
自分のなかにそれが入ってきたときも、ずっと我慢していた。
だけど────苦しい。
その感情が自分のなかに生まれたとき。
「……気づいたら、手袋を外していました」
流は勘違いしていたのだ。
その苦しいは、決して内なるもののせいではなかった。
気づいたときにはもう遅く、部屋には流ひとりきりだった。
火照りきった身体の真ん中から、花がこぼれて布団に落ちた。
足を乱暴に広げ、潤んだ箇所を押し広げていた────お客さんはいなくなっていた。