花笑ふ、消え惑ふ
「本当だ。流ちゃんが見に来てる」
ひとりが気づけば、みんなが気づく。
瞬く間に道場内がざわつき、隊士たちに稽古をつけていた総司もこちらを振り返った。
そして入り口に立っている流に気づき、汗のにじむ額に隠そうともせずシワを寄せる。
「迷子?」
「あ、えっと。そういうわけじゃ……」
「稽古中なの、見てわからない?」
「ごめんなさい……なにをしてるのか気になって」
「気になるもなにも、きみには関係ないと思うんだよね」
総司がなぜイライラしているのか、流はその理由を知っていた。
数日前から、いなくなったのだ。
──────猫が。
総司の可愛がっていた猫がいなくなった、と。
今朝、朝餉のときに平助たちが話しているのを偶然耳にした。
『どこか別のところに行ったんじゃない』
『でもさぁ総司、可愛がってたじゃんか。寂しくないのかよ?』
『べつに。人懐っこいやつだったから、どこででもやっていけるよ』
『お前のたまに見せるその薄情さはなんなんだよぉ』