花笑ふ、消え惑ふ
────なるほど、そういうことか。
なぜお千津が洗濯よりも買い出しを選んだのか。
その理由はすぐにわかった。
流がかごを持っていつも洗濯物を干している場所に向かったとき。
そこからほど近い縁側で寝ていたのは永倉だった。
だらしなく柱にもたれかかり、若干の赤ら顔でまぶたを閉じている。
「お酒のにおい……」
思わずしゃがんで、近くでその顔を見つめていた流。
近くに一合のとっくりがいくつも転がっているだけでなく、その手に持たれたお猪口には酒が入ったままであることに気づく。
このままではふとした拍子に零してしまうかもしれない。
いったん脇に洗濯かごを置いた流は、そうっとお猪口に手を伸ばす。
そのときだった。
「だーめ。子供にゃまだ早いぜ」
ひょいとお猪口が持ちあげられたかと思えば、目をあけた永倉がおもしろそうにこちらを見ていた。
流はなぜか悪いことをしているような気分になって、誤解を解くように両手をあげる。