花笑ふ、消え惑ふ
荒くれ者との邂逅
「新しい女中か」
その人物が流の前に現れたのは、ちょうど雑巾掛けをしているときだった。
つま先からおそるおそる顔をあげると、近藤と同い年くらいの男が流を見下ろしていた。
妙に恰幅のいいその男は、流がなにも言わないのを見るなり、不満げに眉を寄せる。
「口が利けんのかね」
「あ、えっと……利けます。ごめんなさい」
素直に謝ると男は満足したような顔になった。
じろじろと無遠慮に流をながめる。まるで品定めでもするような視線だった。
「雇われの女中か?」
返答に迷った流は一瞬言葉につまった。自分は賃金をもらって働いているわけではない。
それに、自分のことを口外しても果たしていいのか。
流は考えあぐねていた。
そもそもこの人物は誰なのだろう。新撰組の関係者なのだろうか。
「あなたは……」
「芹沢さん!ここにいたんですか」
突如として後ろからかかった声。
芹沢、という名に反応した男が振り返って破顔した。