花笑ふ、消え惑ふ
「おお、総司!久しいな」
「随分と遅かったじゃないですか。寄り道せずに来てくださいって言いましたよね」
「お前は本当に姑のようだのう」
そこにいたのは総司だった。
流と目があったものの、すぐにふいと逸らされる。
総司は迷いのない足どりでこちらに向かってくれば、芹沢と呼ばれた男の前に立ちはだかった。
「近藤さんがお待ちです。はやくこちらへ」
「そんなことより、この女は誰だね?」
流が一向に質問に答えないからか、芹沢は総司に訊ねていた。
「ただの女中ですよ。お気になさらず」
総司はすこし逡巡したあとにそう言ってのけた。
「名はなんという?」
「、それは……」
「────花子だ。芹沢さん」
そのとき、総司の後ろから現れた人物。
いつものように涼しい顔をした土方がそこに立っていた。
芹沢を迎えにいった総司が遅いから様子を見に来たんだろう。
────というか、花子って……わたしのこと?
突如として与えられた偽名。
どうやら土方は流のことを外部に口外する気はないらしい。