花笑ふ、消え惑ふ
「それはだめだ」
もちろん、土方はすぐに割って入ってきた。
芹沢がむっとした顔をする。玩具をとられた子どものような表情だった。
「貴様には関係ないだろう。儂は花子に聞いている」
総司のときとだいぶ態度がちがって見える。
たぶん、総司は芹沢のお気に入りなのだ。
そしてなぜか自分も、芹沢のお気に入りになってしまったのだ、と。
もうほとんど乾いてしまった雑巾を手に、流はおろおろとみんなの顔を見あげた。
「いくら芹沢さんでもその願いは聞き入れられねぇ。そいつは…こう見えて狂人なんだよ。町に放てば野犬ように町民を襲いかねない。いまは落ち着いてるが、あまり人の多いところでは発狂しちまう」
────そうなの!?
「そうなの?」
総司も流と同じような反応をする。
土方が総司を蹴っているのを足元にうずくまっていた流は目撃してしまった。
芹沢がそうなのか?という目つきで流を見てくるから、流は苦し紛れに声をしぼり出す。
「ええと……はい。じつはそうなんです。わ、わたし、ヒト、きらい。襲う。が、がおー」